社会人20年目 点字図書館職員
たくさんのボランティアさんたちに支えられながら

私は、都内にある、小さな点字図書館の職員として働いている視覚障害者です。「点字図書館」と言う言葉を初めてお聞きになる方も多いかもしれません。私たち視覚障害者は、一般の図書館や書店に並ぶ本をそのまま手に取って読むことが出来ません。ふつうの文字で書かれた本を、点字や、音声(テープやCD)の本に作り替えて視覚障害者に貸し出ししているのが点字図書館です。 点字図書館は、全国に90館ほどあり、それぞれに特徴のある活動をしています。私の勤務する図書館は、「人生を考える図書館」と言うことで、宗教や哲学など、難しい本が多いですが、人生を考えるヒントになるような本をたくさん作っています。私たちの図書館は、職員の人数が少なく、たくさんのボランティアさんたちが、一緒に働いてくださっています。 一つ一つ下調べをしながら、ふつうの文字の本を点字やテープにしてくださる、点訳・音訳ボランティアのみなさん、郵便物の発送や貸し出しなどを手伝ってくださる作業ボランティアのみなさん、そんなたくさんの方々に支えられながら図書館の業務がなりたっています。 私の主な仕事は、点訳図書の校正です。ボランティアさんが点訳してくださった本を、別のボランティアさんに原本を見ていただき、私は点字になった同じ本を見ながら読み合わせをします。誤字や脱字がないか、点字の中のルールに従って原本の情報が的確に点訳されているかなどを確認していきます。そして、指摘事項を校正表に纏めて点訳者さんにお返しします。点訳者さんたちは、校正表を見ながら、一箇所ずつ修正してくださるのです。一冊の本が出来上がるためには、担当者を変えて二回の校正を行い、その都度修正をしていただきます。今はほとんどパソコンを使っての点訳になりましたが、それでも、地道で大変な作業です。  図書館のボランティアさんたちは、ほとんどが子育てが一段落された女性や、会社を退職された男性など、人生経験豊富な方々です。ですから、仕事を手伝っていただくだけでなく、何気ない会話の中で、生きる上で大切なことを沢山教えていただいているように思います。 就職して一年ほどたったある日、一人の点訳者さんからいただいたお手紙は、いまでも忘れられません。この方は、80歳を過ぎた男性ですが、長い間パソコンを使って点訳を続けてくださっていました。お渡しした本の点訳について質問された後、次のように書いてくださいました。 「点訳は、本当に難しい。でも、楽しい。私の生きがいです…」
点訳は、ボランティアでお願いしており、どんなにご自分の時間を沢山使って沢山点訳をしていただいても、お金をお支払いすることが出来ません。それでも、生きがいだと言ってくださる方がいる。そのお気持ちが有り難くて、尊くて。そのお手紙を何度も読み返しながら、私はしばらく涙が止まりませんでした。 就職して2年半。毎日満員電車に揺られ、スイカを読みとるピっと言う電子音とともに無言で改札口を通過して行く人混みに紛れながら、自分の顔には表情がなく、心を持たない「もの」になってしまうんじゃないかと感じることがあります。また、目の前にある仕事をただ必死にこなし、残業で体も心も疲れたとき、なんのために働いているんだろうと、ふと思うことがあります。 そんな時、心の引き出しに大切にしまってある、あのボランティアさんがくださったお手紙を、そっと取り出してみるのです。「点訳は、私の生きがいです…」すると、その方のお顔だけでなく、図書館にかかわってくださっている、他の沢山のボランティアさんのお顔が、次々と浮かんでくるのです。 少しでもいい本が出来るようにと、点訳について、一生懸命質問してくださる方。雪が降るような冬の寒い朝も、焼け付くような日差しが照りつける真夏の午後も「おはようございまあす」「こんにちはー」と言う、明るいご挨拶とともにおみえになって、もくもくと作業をしてくださる方や、読み合わせをしてくださる方。 みなさん、私たちの図書館のために、一生懸命働いてくださっている…。そう思うと、心が暖かくなり、元気が出てくるのです。  今、私たちの生活は、あまりにも便利で豊かになりました。パソコンや携帯電話が普及し、私たちの周りには、「情報」や「もの」があふれています。 そして、仕事も家事も、あらゆる面で機械化や効率化が進み、短時間で沢山のことが出来るようになりました。昔の人に比べたら、すごく便利で、生活しやすくなっているはずなのに、誰を見ても、とても忙しそう。私自身、いつも目の前のことに追われながら走っている。 私は誰なんだろう、どこに行こうとしているんだろう、ほんとにほしいものはなんだろう…。人生の中で、ふと、迷子になったような心細さを感じることが、きっと誰にでもあるのではないかと思うのです。そして、こんな時代だからこそ、心の通った暖かい仕事がしたいと思うのです。 誰かの役にたちたい、誰かに必要とされたい、いつも誰かとふれあっていたい…。そんな思いは、みんな同じなんだと思います。 「はたの人を楽にするから、働くって言うんだよ」。子供の頃、そう教えてくれた先生がいました。図書館に関わってくださるボランティアさんたちは、まさに、本当の意味で、「働いて」くださっている方々です。みなさんがいてくださることが、本当にうれしい、いつもありがとう…。そんな思いを惜しみなくお伝えしていきたい。 「点訳は、私の生きがいだ」と思ってくださる方が、図書館で働くのが楽しみだと思ってくださる方が、もっともっと増えるような仕事をしていきたいと思います。 そう言うボランティアさんたちと心をふれあいながら、一冊ずつ新しい本を産み出し、全国で待っていてくださる利用者さんたちにいい本を沢山送り届けていきたい…、それが仕事の中での、私の一番の夢です。  木川友江 42歳
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